JIS H 7001:2009
形状記憶合金用語
Glossary of terms used for shape memory alloys

a)基礎物性・特性
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b)形状記憶特性・超弾性特性
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c)熱処理及びその他の処理
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形状記憶合金用語
Glossary of terms used for shape memory alloys

a)基礎物性・特性
用語 |
定義 |
対応英語(参考) |
---|---|---|
形状記憶効果 | ある形状の合金を低温相(マルテンサイト)の状態で異なる形状に変形させても,高温で安 定な相(オーステナイト)になる温度に加熱するとマルテンサイト逆変態が起こることで,変 形前の形状に戻る現象。 |
shape memory effect |
形状記憶合金 | 形状記憶効果を示す合金。 注記 Ti-Ni 合金,Ti-Ni-Cu 合金,Cu-Zn-Al 合金,Fe-Mn-Si合金などがある。 |
shape memory alloys |
磁性形状記憶合金 | 形状記憶合金としての性質及び磁性材料としての性質を併せもつ合金。 注記 Ni-Mn-Ga 合金,Fe-Pd 合金などの強磁性形状記憶合金では,マルテンサイトに磁 場を負荷することで大きなひずみを発生することができる。 |
magnetic shape memory alloys |
マルテンサイト変態 | 固体間の相変態の一種で,高温で安定な相(オーステナイト)を冷却したとき,ある温度 で,原子が拡散を伴わずにせん断変形的に連携移動して,異なる結晶構造の低温相(マ ルテンサイト)に変化する相変態。 注記 マルテンサイト変態の特徴を,次に示す。 a)無拡散変態である。 b)表面起伏(形状変化)を伴う。 c)母相とマルテンサイトの結晶格子との間に特定の格子対応及び方位関係がある。 d)晶へき面をもつ。 |
martensitic transformation |
マルテンサイト | マルテンサイト変態によって生じる低温相の名称。 注記 マルテンサイトは,母相からの冷却だけで生じるのではなく,母相状態で応力, 静水圧又は磁場を加えることによっても生じることがある。 |
martensitic transformation |
オーステナイト | マルテンサイト変態に関与する相で,高温側で安定に存在する相。 注記 母相又は高温相ともいう。 |
austenite |
B2相 | Ti-Ni 系形状記憶合金のオーステナイト相。 | B2 phase |
B19’相 | Ti-Ni 系形状記憶合金で生成する単斜晶のマルテンサイト。 | B19’ phase |
B19相 | Ti-Ni-Cuなどで生成する斜方晶のマルテンサイト。 注記 B19 相へのマルテンサイト変態は,変態ひずみが約 5 %ありながら温度ヒステリシス が小さいため,アクチュエータとしての応用に適している。 |
B19 phase |
R相 | Ti-Ni 系形状記憶合金で,母相とB19’相との中間の温度域で生成する三方晶のマ ルテンサイト。 注記 R 相が出現するかどうかは組成又は内部組織によって異なり,相変態がB2&# 8594;R→B19’の二段になる場合と,B2→B19’の一段になる場合 とがある。Ti-Ni 合金では,転位などの加工組織又は析出物が存在するときに R相が生成 しやすくなる。B2 相から R 相へのマルテンサイト変態は,B2 相から B19’相へのマ ルテンサイト変態と比較して変態ひずみ,温度ヒステリシス及び応力ヒステリシスが小さい。 |
R phase |
R相変態 | Ti-Ni 系形状記憶合金で R 相を生じるマルテンサイト変態。 | R phase transformation |
熱弾性形マルテンサイト変態 | 変態による化学自由エネルギーの変化と変態に伴う弾性ひずみエネルギーの変化とが, 平衡を保ちながら起きるようなマルテンサイト変態。 注記 この種の変態が起こる合金では,マルテンサイトとオーステナイトとの界面の整 合性が良いため,その移動が容易に起こる。そのためマルテンサイトは,温度の変化に対 応して成長又は縮小し,変態の可逆性に優れ,温度ヒステリシスも小さい。形状記憶合金 のマルテンサイト変態は,ほとんどの合金で熱弾性形である。 |
thermo-elastic martensitic transformation |
応力誘起マルテンサイト変態 | 母相の安定な温度領域で,負荷応力によって誘起されるマルテンサイト変態。 | stress-induced martensitic transformation |
磁場誘起マルテンサイト変態 | 外部磁場によって誘起されるマルテンサイト変態。 | magnetic field induced martensitic transformation |
多段変態 | マルテンサイト相を冷却したり,応力,磁場などの外場を負荷することで異なった構造のマ ルテンサイト相へと変態すること。 |
multistep transformation, successive transformation |
擬弾性 | 原子間隔の変化に起因する弾性以外の機構で生じる,見かけの弾性の総称。 | pseudoelasticity |
超弾性 | 負荷時に応力誘起マルテンサイト変態によって生じた変形が,除荷時の逆変態によって回 復する性質。 注記 このようなマルテンサイト変態に伴う超弾性を,変態擬弾性ともいう。また,マル テンサイトの双晶界面の可逆的な運動によって生じるものは,双晶擬弾性といって区別す る。超弾性,双晶擬弾性では,弾性ひずみの数倍∼数十倍のひずみが除荷時に回 復する。 |
superelasticity |
逆変態 | 冷却又は負荷に伴って生じた相変態が,加熱又は除荷に伴って母相に逆戻りする変態。 注記 加熱の場合には,マルテンサイトからオーステナイトへ,R相からオーステナイト へ,又はマルテンサイトから R相への変態がある。応力誘起マルテンサイト変態の場合に は,マルテンサイトから構造の異なるマルテンサイトへの逆変態もある。 |
reverse transformation |
変態温度 | 相変態が起こる温度。 注記 マルテンサイト変態の場合には,次のような記号が用いられる。 Ms:冷却時に,オーステナイトからマルテンサイトへの変態が開始する温度。 Mp:冷却時の,オーステナイトからマルテンサイトへの変態の発熱ピーク温度。 Mf:冷却時に,オーステナイトからマルテンサイトへの変態が終了する温度。 As:加熱時に,マルテンサイトからオーステナイトへの逆変態が開始する温度。 Ap:加熱時の,マルテンサイトからオーステナイトへの逆変態の吸熱ピーク温度。 Af:加熱時に,マルテンサイトからオーステナイトへの逆変態が終了する温度。 R相変態の場合にも上記に準じた記号を用いることがある。 なお,これらの記号の後に温度又は点を付けて表示する場合もある(例えば,Af温度,Af 点など)。 |
transformation temperature |
生体適合性 | 細胞,血液,結合組織などの生きた生体組織に直接的に接触して利用され,長期間にわ たって生体に悪影響も強い刺激も与えず,本来の機能を果たしながら生体と共存できる性 質(JISK 3600 参照)。 |
biocompatibility |
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b)形状記憶特性・超弾性特性
用語 |
定義 |
対応英語(参考) |
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形状回復力 | 形状記憶効果によって,形状が元へ戻るときに発生する力。 注記 発生力ともいう。 |
shape recovery force |
形状回復ひずみ | 形状記憶効果によって,回復可能なひずみ。 注記 形状回復量ともいう。 |
shape recovery strain |
形状回復温度 | 形状記憶効果によって,形状回復が終了する温度。 注記 逆変態が終了する温度 Afで代用する場合がある。 |
shape recovery temperature |
一方向形状記憶効果 | 高温相における形状だけを記憶しており,加熱時には形状回復するが,冷却時には形状 変化しない形状記憶効果。 注記 不可逆形状記憶効果ともいう。 |
one-way shape memory effect, irreversible shape memory effect |
二方向形状記憶効果 | 高温相と低温相との両方の形状を記憶しており,外部応力を加えなくても加熱時ばかりで なく冷却時にも形状変化する形状記憶効果。 注記 可逆形状記憶効果ともいう。また,拘束時効処理したNi過剰なTi-Ni合金に現れ る二方向形状記憶効果を特に全方位形状記憶効果といい,トレーニング,拘束加熱又は 強変形の二方向形状記憶処理で生じた二方向形状記憶効果よりも低温での形状回復力 及び形状回復量が大きい。 |
two-way shape memory effect, reversible shape memory effect |
温度ヒステリシス | 加熱時と冷却時における変態温度の差。 注記 通常 Af温度と Ms温度との差を指す。熱ヒステリシスともいう。 |
thermal hysteresis |
応力ヒステリシス | 応力誘起マルテンサイト変態において,負荷時にマルテンサイト変態を誘起するために必 要な応力と,除荷時にマルテンサイトが母相に逆変態する応力との差。 |
stress hysteresis |
形状記憶素子 | 形状記憶処理によって,一定の形状を記憶した形状記憶効果を機能とする素子。 | shape memory element |
超弾性素子 | 超弾性処理によって,所定の形状への超弾性復元を機能とする素子。 | superelastic element |
形状記憶ばね | 形状記憶合金で製造され,形状記憶効果を示すばね。 注記 通常のばねが弾性によって形状回復するのに対して,このばねでは,温度変 化によって形状回復する。圧縮コイルばね,引張コイルばね,薄板ばね,皿ばねなどがあ り,圧縮コイルばねでは,形状回復時に伸張し,引張コイルばねでは,形状回復時に収縮 する。 |
shape memory alloy spring |
超弾性ばね | 形状記憶合金で製造され,超弾性による復元を示す特殊なばね。 注記 形状記憶ばねと異なり,直線,アーチなどの単純形状用途が多い。 |
superelastic spring |
バイアス法 | 形状記憶素子において,コイルばね,板ばねなどを用いて形状記憶素子の駆動部に外部 応力を負荷して,二方向動作を繰り返し行わせる方法。 |
bias method |
バイアスばね | バイアス法において,外部応力を負荷するために用いるばね。 | bias spring |
残留伸び | 超弾性においては,応力を負荷して変形した後,除荷時に残留する伸び。形状記憶効果 においては,マルテンサイト相状態で変形し,形状回復温度以上に加熱した後に残留する 伸び。 注記 残留ひずみという場合もある。 |
residual elongation |
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c)熱処理及びその他の処理
用語 |
定義 |
対応英語(参考) |
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溶体化処理 | 合金を高温側の固溶体領域まで加熱して,その温度に適切な時間保持して焼き入れし, 固溶体化する処理。 |
solution heat treatment |
均質化処理 | Ti-Ni 系形状記憶合金などの規則合金を規則化温度以下の高温で保持することで,組成 むら及び加工組織のない単相状態とする処理。 |
homogenization treatment |
時効処理 | 焼入れ又は加工によって生じた欠陥を除去したり,析出物を生じさせる目的で行われる熱 処理の総称。 注記 Ti-Ni 合金では析出を促進し,銅系合金では母相を安定化させるために行う。 |
aging treatment |
形状記憶処理 | 形状を記憶させるために所定の形状に拘束して,オーステナイト状態の一定温度に加熱す る処理。 注記 一方向形状記憶処理ともいう。 |
shape memory treatment |
二方向形状記憶処理 | 二方向形状記憶効果を付与するために,オーステナイトに内部応力場を導入するための 処理。 注記 トレーニング,強変形,拘束時効処理などがある。 |
two-way shape memory treatment |
トレーニング | 形状記憶効果,二方向形状記憶効果を発現させ,又は特性を改善するために,応力と温 度との両方の効果を与えてマルテンサイト変態と逆変態とを繰り返す操作。 注記 次のような操作がよく知られている。 1) 応力下又はひずみ下で,Mf点以下の温度と Af点以上の温度との間で冷却・加熱の操 作を繰り返す。 2) Ms点又は Mf点以下の温度に冷却して変形し,次いで外力を除いてAf点以上の 温度に加熱するという操作を繰り返す(形状記憶効果トレーニング)。 3) Af点以上の温度で応力誘起マルテンサイト変態を起こさせ,次いで荷重を除くと いう操作を繰り返す(応力誘起トレーニング)。 |
training |
拘束時効処理 | 変形した形状に拘束したままで時効処理すること。 注記 主に Ti-Ni 合金で B2相中に微細な析出物を析出させ,二方向形状記憶効果 を導き出すための方法の一つとなっている。 |
constrained aging treatment |
超弾性処理 | 所定の形状への超弾性復元性を付与するために行う熱処理。 注記 熱処理温度は,形状記憶処理に比べ低く,ランニング炉での短時間処理の場 合もある。 |
superelastic treatment |
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